講演者・発表情報
講演者
笹部 潤平Jumpei SASABE
専任講師
医学部卒業後は、内科医として研修ののち、同大学博士過程に進学して、「神経難病とアミノ酸のキラリティの関わり」について研究し、2008年博士号(医学)を取得。その後、Harvard Medical School の博士研究員として渡米し、「アミノ酸のキラリティによる哺乳類と共生微生物の相互作用」を研究。帰国後は、内科医として働きながら、慶應義塾大学医学部専任講師、WPI-Bio2Q Jr PI として、哺乳類におけるアミノ酸のキラリティの機能的意義について研究を続けている。
右と左の分子の世界
森 秀人Hideto MORI
特任准教授(常勤)
対話型AIを用いたDNA配列設計の自動化
小口 綾貴子Akiko OGUCHI
特任研究員
RNAから切り拓くヒトゲノムの未踏領域
高校生ポスター発表要旨
こんにゃく糊と和紙を用いた気球素材の開発
こんにゃく糊と和紙を用いた気球素材の開発
地上30kmの高層気象観測を行う方法として、ラジオゾンデをゴム気球に吊るして飛揚させる方法がある。また、宇宙に近い環境で観測・実験を行う方法として科学観測用気球なども作成されているが、多くがポリエチレンフィルムなど合成高分子製であり、役目を終えたら海などに投下されることがほとんどである。天然ゴムであっても、海洋での生分解性が遅く生物に影響が出る可能性がある。
そのため、本研究では環境負荷の少ない材料を用いて気球を作ることを目的として、こんにゃく糊と和紙を使って、軽量・高強度・高気密な気球素材の開発と実験を行っている。これまでの実験結果から、こんにゃく糊にセルロースナノファイバーを混ぜて塗り、アルカリ処理およびグリセリン塗布を行った和紙は、強度が高く、気密性が高くなることが明らかになっており、気球の試作も行うことができた。現在はさらに軽量化を目指して、実験を行っている。
サボニウス風車の発電量向上へ
サボニウス風車の発電量向上へ
垂直型風力発電機の一種、サボニウス型は小さな風速で発電できる反面、発電量が小さい。そこで発電量の向上に向けて、回転数と発電量の関係や、風車のパワー係数を調べた。今後は実験回数を増やし、屋外計測により実際の環境での発電効率を調べて最適な風車の形状を探究していく。
ペットボトルロケットに取り付けた可変翼における最適な翼形状および機体設計
ペットボトルロケットに取り付けた可変翼における最適な翼形状および機体設計
私たちは、ペットボトルロケットの飛距離をひたすら延ばすことを目標に研究をしている。水ロケットの胴体に飛行機と同様の翼を取り付けることで、ロケットを下降時に滑空させ、飛距離を伸ばすことを考えた。その翼は、上昇時には収納し、最高高度に達した際に展開するような、可変翼(厳密には展開翼)とした。この可変翼機を製作し、飛行させたのだが、翼の展開後すぐには滑空を始めないことが判明した。展開時では機体の速度が低く、揚力を十分に得られなかったこと、もしくは、展開時には機体の姿勢変化が大きいために、翼の表面を流れる気流が剥離していたことが原因であると考えられる。そのため、ペットボトルロケットの飛行特性に最適な可変翼の翼形、すなわち、低速でも揚力を十分に得られ、姿勢が変化した際にも失速を起こしにくい翼の形状を模索することにした。風洞実験器を製作し、その模型に流れる気流を観察することで、最適な翼形を調べる。
物体の落下による水面クレーターの形成と水の跳ね上がりについて
物体の落下による水面クレーターの形成と水の跳ね上がりについて
僕が研究している、物体が水面に落下して水が跳ね上がるという現象は、三段階に分けることができます。まず、物体が水面に落下して沈んでいくと、物体が水を押し除けて進んでいくことで水面が凹みます。この水面の凹みを水面クレーターとしています。次に、深くまで沈んだ時、水面クレーターが二つに分割されます。水面に接している方と、物体を纏う側の上下の二つに分かれます。そして最後の段階は、上の、水面に接した側の水面クレーターが、平らな水面の状態に戻ろうとするように下から押し上げられていって、その勢いで水が跳ね上がる、というものです。これらの一連の流れをそれぞれのポイントに分けて観察、考察することで、最終的にこの現象を解き明かそうとしています。具体的には、水が跳ね上がる高さは水面クレーターの形状に、形状は物体の落としかたに関係しているだろうということで、それぞれ条件を変えて実験をしています。
家庭用工作機械を用いて製作した小型のサイクロ減速機と遊星歯車減速機の製作と比較
家庭用工作機械を用いて製作した小型のサイクロ減速機と遊星歯車減速機の製作と比較
駆動部の小型化は、非常に重要なテーマです。ロボットの小型化や電子回路を載せるスペースの確保に繋がるためです。駆動部はモータと減速機に分けられます。モータを小型化すればするほど、回転数が上がりトルクが落ちます。そのため、回転数を下げ、トルクを上げる減速機の小型化と大減速比は非常に重要です。今回は減速機研究の足がかりとして、家庭用工作機械を用いて減速比毎にサイクロ減速機と遊星歯車減速機を製作し、その大きさを比較します。
今回の研究での「家庭用工作機械」の定義は、3Dプリンタ(ノズル径は0.4mm)とCNC(エンドミルは刃径1mm)とします。減速機の素材はポリアセタール樹脂を板材を用い、CNCで部品を切り出します。減速比はそれぞれ5,15,45として製作を行います。製作時の気づきや工夫などについても記述します。
日本海中部で発生したスプライトの発光形態の解明
日本海中部で発生したスプライトの発光形態の解明
本校では校舎4階に高感度CCDカメラを設置して観測を行い、2023年の7月と8月に西から東に順番に発光する、高高度発光現象の一つであるスプライトを観測した。さらに東から西へ、不規則に発光するスプライトも観測された。本研究では、短時間で連続で発生するスプライトのうち、一方向に発光していくものをランニングスプライト、不規則な順で発光していくものをダンシングスプライトと定義した。本研究では、先行研究をもとにダンシング・ランニングスプライトの発光形態を解明することを目的とした。ダンシングスプライトは発光の仕方で4種類に分類できることが判明し、ランニングスプライトは移動の向きで2種類に分類した。また、イベントの日にはどちらも局所的で激しい降水が記録されていた。積乱雲の急激な発達により巨大なエネルギーが発生したことにより、落雷に伴ってダンシングスプライトまたはランニングスプライトが発生したと考えられる。
須磨学園 地震マイスターからの提言
須磨学園 地震マイスターからの提言
私たちは,今年の2月、研修旅行で訪れた北海道の有珠山で洞爺湖有珠火山マイスターの方々から「火山との共生」について話を聞きました。その中で、防災についても多くを学びました。防災には、火山の特性や自然について正しい知識を持つことが大切で、洞爺湖有珠火山マイスターの方々は地域防災のリーダーとして活動していることを知りました。特に、感銘を受けたのは、洞爺湖有珠火山マイスターが「率先避難者」であるということでした。須磨学園がある兵庫県神戸市には、火山災害こそありませんが、阪神淡路大震災では甚大な被害を受けた経験があり、南海トラフを震源とする大地震やそれにともなう津波の発生への心配が常にあります。私たちは、有珠山で知り得た経験を、地震への備えとしての防災に活用できるかも知れないと考えました。須磨学園地震マイスターとして、私たちから大地震や津波に対する防災と率先避難者としての提言を述べさていただきます。
伊勢茶を用いた災害対策
伊勢茶を用いた災害対策
三重県が全国3位の生産量を誇るお茶の銘柄、伊勢茶。私たちの学校が位置する北勢地区ではかぶせ茶の生産が盛んである。かぶせ茶は摘み取る前の茶葉に布を被せることで日光が届かない状況で栽培するため、テアニン(アミノ酸の一種でお茶の旨み、甘み成分)が煎茶よりも多く、リラックス効果や睡眠の質を向上させる効果が高いなどの多くの効果があることが知られている。
そこで私たちは、このリラックス効果を将来起こると予測されている南海トラフ地震で利用できるのではないかと考えた。気象庁が発表している震度分布によると、三重県は震度6弱〜震度7の地震が予測されている。先が見えない不安の中、ストレスがかかる長い避難生活になることは間違いない。今回、避難場所に、防災リュックに、防災グッズとして伊勢茶を取り入れてみることを提案したい。
安全な場所に住むために 〜地震動に強い地盤について新たな指標を用いた考察〜
安全な場所に住むために 〜地震動に強い地盤について新たな指標を用いた考察〜
日本は地震大国であり、建物の倒壊などの二次災害によって人命が奪われることが少なくない。そこで、本研究では安全な場所に住むためにというテーマのもと、地震動と地盤の関係について考察した。ここでは土の含水比を変量とし、自作の振動発生装置を用いて建物に見立てた木材が倒れるまでの時間を計測した。また、地盤の硬さの指標としてn値を参考に新たに定めたS値(硬い地盤ほど値が大きくなる)を用いた。揺らした時間とS値の両方において、含水比が大きくなるほど値が大きくなった。その後、40%前後で最大値となったが、50%を超えると液状化し、値が小さくなった。結果より、地盤の含水比と地震動に対する強さには、対応関係が見られた。本研究より、土地の含水比を調べることで地震動に対する強さがある程度推測できることがわかった。S値は、土の含水比を調べることで、地震動と地盤の関係を示す有効な指標になりうると考える。
効果的な防砂ネットについて
効果的な防砂ネットについて
強い海風の吹き付ける新潟の砂浜には、砂が風で飛散するのを防ぐための「防砂ネット」が設置されている。本研究は、この防砂ネットの効果的な活用法の解明を目標とする。浜に設置されている防砂ネットでの砂の堆積を観察したところ、風上である海側の砂はネットによって遮られ、「絶壁」となる特徴的な堆積がみられる。砂を風で飛ばしただけでは、砂がネットを通って後ろ側にも堆積し、このような絶壁は形成されない。この堆積は砂の持つ水分に大きな影響を受けているのではないかと考え、防砂ネットを再現した模型において、水分量の異なる砂を飛ばす再現実験を行なった。その結果、飛散した砂が防砂ネット手前の湿った砂によってトラップされ堆積し、表面がまた湿ることによって堆積が進むことがわかった。現在、浜での長期的な堆積の計測や砂の水分測定とともに、数理的なモデル化を試みており、理論・観測の両面から効果的な活用法の解明を進めている。
物質代謝モデルを用いた南あわじ市の農業部門の温室効果ガス排出削減対策評価
物質代謝モデルを用いた南あわじ市の農業部門の温室効果ガス排出削減対策評価
本研究では、プロセス指向型シミュレーションモデルのDNDCモデルを用いて兵庫県南あわじ市で行われている世界的にみても他に事例のない水稲、たまねぎ、畜産が連携・循環する伝統的な農業システムからの温室効果ガス(以下GHG)排出量を予測する。また、南あわじ地域では近年農業従事者の高齢化が進み、この農業システムの維持が難しくなっていることを鑑みて先述した農業システムが変遷した場合の別の農業システムにおけるGHG排出量も予測する。そして、伝統的な農業システムを踏襲しながら、GHG排出量削減に焦点を当て、適切な技術導入を行った場合についても予測し、総合評価を行う。持続可能な水利用や生態系への影響の観点から高く評価されている南あわじ市の伝統的な農業システムを近年の社会課題である地球温暖化に結び付け、持続可能農業モデルとしての可能性を見出し、循環型社会の推進のきっかけにする。
感染症への須磨フィジカルディスタンス
感染症への須磨フィジカルディスタンス
コロナ禍の約3年間、感染症と学校生活について、これほど考えることになるとは想像もできませんでした。新型コロナウイルスの発生と感染拡大から、私たちの学校生活は、大きく変化を遂げました。毎日が感染症対策との付き合いでした。学校では、休校にはじまり、はじめて経験するオンラインでの授業、緊急事態宣言の発令と解除の繰り返し、分散登校、週1回登校、週3回登校、週5回登校をいったり来たりしながら過ごしました。いち早くオンライン授業を導入した須磨学園では学習に対する不安はそれほどなかったものの、世界的な流れと同様に人との距離は離れ、クラスメイトや友達との付き合いと部活動をはじめとする課外活動は大きく制限されました。現在の状況に戻るまでに、私たちが3年間で経験した感染症対策のすべてを改めてデータ解析し、これからの学校生活に普遍的に活用できる感染症への須磨フィジカルディスタンスを検証します。
運動時のマスク着用が口腔内に及ぼす影響とは -高校生を対象とした実験から考える-
運動時のマスク着用が口腔内に及ぼす影響とは -高校生を対象とした実験から考える-
新型コロナを受けてマスクを着用する機会が増え、当時の教育現場では体育授業時や部活動時にマスクを着用しての運動がなされる場面があった。運動時の唾液pHは低下することが既に報告されているが、マスク着用によって運動時の口腔環境はどのように変化するのか疑問に思い、研究を進めることにした。本研究では運動時の唾液pH及び唾液緩衝能の、マスク着用の有無による変動を明らかにするとともに、水分摂取条件を加えた際の唾液pH、唾液緩衝能の変動を調査する。大泉高校同ゼミに所属する男女計5名を対象に、30分間の運動負荷試験をエアロバイクにより実施する。マスクの着用と水分摂取については(1)マスク着用なし(2)マスク着用あり(3)マスク着用なし、スポーツドリンク摂取(4)マスク着用あり、スポーツドリンク摂取の4条件とし、唾液 pHと唾液緩衝能の経時的変化を観察する。この夏実験を終え、現在結果と考察に取り組んでいる。
アゲハチョウの尾状突起の差異とその役割
アゲハチョウの尾状突起の差異とその役割
尾状突起とは、アゲハチョウ科などの鱗翅目の後翅についている突起状の部分のことである。アゲハチョウは古くから家紋などに使われており、多くの種で後翅の尾状突起が特徴となっている。一方で、尾状突起がない種や短い種もおり、その差異が飛翔に何かしらの影響を及ぼしていると私たちは考えた。アゲハチョウ科の尾状突起は飛翔時の滑空能力を高める働きがあると考えられており、アフリカ地域に生息しているコオナガコモンタイマイ(Graphium policenes)については既に実証されている。一方、コオナガコモンタイマイとは属が異なり、翅形などにも違いがみられる日本に生息しているアゲハチョウについては、尾状突起の役割に関してまだ明らかになっていないことが多い。そこで、本研究では日本に生息しているアゲハチョウ各種について、尾状突起の差異が飛翔にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにしたい。
ミヤマスミレ節、葉が切れ込むスミレ種の分類学的研究
ミヤマスミレ節、葉が切れ込むスミレ種の分類学的研究
スミレ属ミヤマスミレ節内のスミレは形態的によく似通っており、分類が難しい。本校スミレ班はこの2年間、ミヤマスミレ節内の種について分子系統解析を中心に研究を行ってきた。その研究過程で、葉緑体DNA、核DNAの分子系統解析から単葉のヒカゲスミレと葉が切れ込むスミレがよく似た塩基配列を持つことが分かった。そこで今回は葉が切れ込む4種を中心に葉緑体DNAの2領域、核DNAの2領域と、新たに葉緑体全ゲノムを分析、系統樹を作成してそれらの種の関係について報告する。また、生態ニッチモデリングによる日本列島への分布拡大の過程も探り、ヒカゲスミレと葉が切れ込むスミレ種について考察する。
研究の結果、単葉のヒカゲスミレと葉が切れ込むエイザン、ヒゴスミレは同じ種から進化した可能性が高く、エイザンスミレとヒゴスミレは別種ではなく、種内変異の可能性が高いことが分かった。
琵琶湖湖底の環境要因がD.purikariaに与える影響
琵琶湖湖底の環境要因がD.purikariaに与える影響
琵琶湖にはD.purikariaに代表される複数種の甲殻類プランクトンが生息しており、天敵である魚類から逃れるために昼間は貧酸素層に移動する日周鉛直移動を行うことが知られている。本研究では琵琶湖に生息する大型甲殻類の季節ごとの鉛直分布と琵琶湖のほぼすべての深度に生息しているプリカリアミジンコ(Daphnia pulicaria)を用いた実験を行い、動物プランクトン群集に全循環によるDO値、水温等の環境要因が与える影響を調査した。その結果、湖底の大型甲殻類プランクトンの個体数の変化にはDO値が大きく関わっている可能性が高いという事が分かった。この結果は琵琶湖の動物プランクトン群集が全循環に影響を受けていることを示唆している。
ヤマトサンショウウオから考える温暖化による種の保存の問題
ヤマトサンショウウオから考える温暖化による種の保存の問題
私たちは岐阜市において絶滅危惧Ⅰ類に指定されているヤマトサンショウウオの保護活動を18年間行い、保護した卵嚢や成体の各種データを蓄積してきた。その中で、気温上昇に伴いヤマトサンショウウオの産卵開始日が早期化していることが示されたため、産卵期と生息地が近いセトウチサンショウウオとの交雑リスクを実験下において検証するとともに、生じた交雑個体の成長を追跡して、温暖化により懸念される将来的な種の保存の問題を検討することにした。
実験下において、両種に繁殖行動がみられたことから、互いに性フェロモンが類似していることがわかった。発生した多くの交雑個体は奇形が多く、それらは上陸前に死亡したが、2回の人工授精により49個体が変態・上陸し、そのうち6個体は29カ月経過した現在も生存し、成長していることから、交雑種が長期にわたり生存することが示された。来春は孵化後3年となるため、妊性の可否について確認する予定である。
浸水状態での培養が麹菌に与える影響
浸水状態での培養が麹菌に与える影響
好気性のカビの麹菌が水中でどの様に増殖するのか、3つの培養方法で観察した。①固体培養、②①の上に滅菌水を30mL張る培地での培養、③液体振盪培養のそれぞれで培養後、得られた物体の乾燥質量を計測した。また、培養後、①では寒天上に蒸留水を注ぎ攪拌した懸濁液、②は蒸留水を追加し攪拌した懸濁液、③は液体培地そのものを粗酵素液として、基質の⒜可溶性デンプン溶液、⒝スキムミルク溶液に加えた。⒜はヨウ素デンプン反応で現れる色、⒝はスキムミルク溶液の色に対する吸光度を測定し、アミラーゼ活性とプロテアーゼ活性を調べた。平均乾燥質量は②で最大で、麹菌が空気の多い水面方向に伸長し被膜を張ったためだと考える。吸光度は⒜⒝とも対照実験とほとんど差がなかった。観察を通し、麹菌は水中でも増殖し、液体振盪培養では水流によりマリモのように球状の集合体を形成することを確認した。各酵素の発現の誘導方法は今後検討が必要である。
根粒菌による窒素固定のはたらきを可視化する実験の開発
根粒菌による窒素固定のはたらきを可視化する実験の開発
1.研究背景
教科書に記載されている根粒菌による窒素固定のはたらきに関する説明は、根粒、根粒菌の写真の掲載に留まり、深く理解できるような実験が見られない。
2.研究方法
透明な寒天培地に以下の3条件に分けてミヤコグサ・シロツメクサを栽培し、地上部の生育と根粒形成の関係を継続的に観察可能な実験系の確立を試みた。
条件① 窒素成分あり
条件② 窒素成分なし
条件③ 窒素成分なし+根粒菌感染
3.研究結果および考察
寒天中の根粒形成は達成されたが、a. 全体的に生育の悪い個体が多い。b. 窒素以外の肥料成分が統一されていない。c. 透明と言えど観察しづらい。等の課題点が挙げられた。
そこで、窒素以外の肥料成分を統一した上で、適切な肥料濃度および観察に適した寒天濃度を探っていく必要がある。
4.結論
植物の生育を安定させ、なおかつ、根粒形成が起こり、根粒菌のはたらきを確認できる実験系の確立を目指している。
都立富士校の生物相調査と環境評価 ー生き物図鑑プロジェクトの成果と展望ー
都立富士校の生物相調査と環境評価 ー生き物図鑑プロジェクトの成果と展望ー
本研究は、富士校の生物相調査を行いハンドブックにまとめること、その結果を利用して環境評価を行うことを目的とし、2021年1月から2022年5月にかけて科学探究部生物班によって行った。本校は中野区と杉並区の間に位置し、周囲を住宅街に囲われているにも関わらず自然が見られる。調査の結果、植物191種、昆虫59種、鳥類9種、爬虫類2種、クモ類2種、ムカデ類1種、ヤスデ類1種、計260種を同定し記録した。確認された絶滅危惧種や外来種、指標生物(その場所の環境の質を知ることに役立つ種)から、本校の環境は「都市化が進行しつつあるが、依然としてある程度の豊かさを維持している」と評価した。しかし、杉並区自然環境調査報告書では2424種の動植物が確認されていることから、現在の調査結果だけでは不十分だと考える。今後、調査を継続して記載種を増やし、同定できていない種の同定も進め、より精密に環境評価を行いたい。
人間の利益の為に犠牲になっている生物達と共生する道 〜自作絵本を通じて未来を築いていく世代へと〜
人間の利益の為に犠牲になっている生物達と共生する道 〜自作絵本を通じて未来を築いていく世代へと〜
私たちはネパールで参加した「サイの保護ボランティア」で得た経験や、動物愛護団体に参加しペットの悲惨な状況を目の当たりにしたことで、野生動物の減少や動物虐待などの現状を知りそれを解消するためには何が必要かを考えた。本研究では、まずはその現状を知っている人が少ないことが問題と感じ、環境教育の観点からアプローチすることでその課題を解決することを目指した。自身の経験から学童期・青年期における時期への影響力が大きいと考え、今回は環境教育に最適な年齢である小学校低学年を対象とした絵本を作成し、その効果を検証した。また、この問題は日本にとどまらず地球規模であることから日本語と英語の2か国語を用い、様々な種類の施設を回り、絵本の読み聞かせ前後でアンケート調査を行い意識の変化を図った。さらには、環境教育に興味のある保護者に協力してもらい環境教育に関心を持つきっかけに迫った。
岐阜市長良川堤防におけるジャコウアゲハとホソオチョウの生存競争について
岐阜市長良川堤防におけるジャコウアゲハとホソオチョウの生存競争について
ジャコウアゲハ(在来種)およびホソオチョウ(外来種)は、いずれもウマノスズクサを食草としている。外来種との競争による影響を解明するために、野外での成体数調査を継続的に行っている。その結果、ジャコウアゲハは連続的に、ホソオチョウは不連続に発生していることが分かった。食草が不足する場合、成体は連続的に発生することが先行研究により明らかとなっている為、本調査地のジャコウアゲハは食草が不足していると考えられた。一方でジャコウアゲハは個体数を維持する能力高いことが考えられる。両種のマーキング調査からは、ホソオチョウは飛翔力が低く、自力で生息範囲を拡大できないが、ジャコウアゲハは生息範囲の拡大が可能であることが分かった。更に、ジャコウアゲハの幼虫体色は高温で変化することも明らかになった。以上より、ジャコウアゲハは競争により遺伝的多様性が低下するが非常に優れた生存戦略を持つため絶滅はしないと考えられる。
桃山丘陵地域におけるカラスの行動
桃山丘陵地域におけるカラスの行動
私たちは、人間とカラスが共存し合える環境を作りたいと思い研究を始めた。
1.学校周辺のカラスの群れに着目し、鳴き声と行動の関係を観察したところ、カラスは一斉移動の際、直前に警戒の鳴き声を鳴く場合があった。その際に録音した音声を流し、どのような行動を起こすかを確認したが、現段階でカラスの行動に変化は見られなかった。
2.人がカラスをまねた音声をスピーカーから、ねぐらにいるカラスの集団に聞かせた。
以下考察
1.カラスの警戒音声を流しても反応しなかったことから、元の音声に問題があるのではないか。
2.人の声には反応したことから、その音声はカラスが聞き取り、行動に移す特徴をもつ音声なのではないか。
3.一斉移動の直前に6回鳴く個体がいた。その個体は他の個体に何らかの異変や危険を伝えており、音声を聞いて他の個体が一斉移動したのではないか。
今後はデータを収集し、カラスのコミュニケーションの規則性を調査したい。
徳島が誇るスジアオノリが秘めた水質浄化作用の可能性 ~窒素固定を利用して硝化菌の有無による検証~
徳島が誇るスジアオノリが秘めた水質浄化作用の可能性 ~窒素固定を利用して硝化菌の有無による検証~
スジアオノリの水質浄化能力を左右する要因を調べるために実験を行った。ここで言う水質浄化能力とは硝酸イオンの吸収率のことを言う。先行研究では、スジアオノリなどの海藻が繁茂した場合、夏季の昼間において高度処理施設と同程度の水質浄化作用を持つことが明らかになっている。しかし、何が藻類の硝酸イオンの吸収を促しているのかを言及した例はない。そこでスジアオノリの水質浄化における過程を明らかにするために、窒素固定の仕組みを利用し、硝化菌の有無に関する対照実験を用いて硝酸イオン量の違いを測定した。その結果、水溶液中に硝化菌がある場合に硝酸イオンの吸収率が高くなることがわかった。このことからスジアオノリの硝酸イオンの吸収を促す主な要因は硝化菌であると考えられる。今後、硝化菌量を数値化することで、硝化菌の量と硝酸イオンの吸収率との相関関係や硝化菌の効果の限度について調査したい。また、実証試験も検討している。
ミジンコの食用化に向けた飼育水と添加物の検討 ー新たな食料としての可能性ー
ミジンコの食用化に向けた飼育水と添加物の検討 ー新たな食料としての可能性ー
近年人口増加による食糧危機が示唆されている。私たちは家畜や植物などをタンパク源としており、今日では昆虫も新たなタンパク源として注目されている。そこで新たなタンパク源として、世代交代と繁殖速度が速く、CO₂低排出、小規模スペースで飼育が容易で、タンパク質含有量が高いミジンコに注目した。本研究はミジンコの食用化に向けた飼育水と添加物の検討を目的とし、先行研究を参考に、飼育水として硬水ミネラルウォーター、添加物として200倍希釈の生茶がミジンコの飼育に適しているという仮説を立て実験を行った。実験では(1)4種類の飼育水の比較、(2)添加物としての生茶濃度の比較を行った。その結果、脱塩素水道水に100倍希釈の生茶を添加したときに、生存日数と産仔数が共に多くなることがわかった。今後は、飼育水と添加物の組み合わせに適切な餌を加え、ミジンコを効率よく大量に繁殖させるのに適した条件を明らかにしていきたい。
卵が使われているレシピにおいて卵の部分のみを植物性食品で代替する方法
卵が使われているレシピにおいて卵の部分のみを植物性食品で代替する方法
卵は料理に嗜好性をもたらし、多くのレシピに使われている。この傾向は卵を避ける必要がある人々の「食」に対するハードルになり得る。卵を代替することの需要は増加しているが、その方法は確立されていない。本研究では、卵を使用した焼き菓子のレシピにおいて、その卵の部分のみを植物性食品で代替する方法を明らかにすることを目的とした。おいしさの一因となる食感を卵を使用したマフィンに近づけるために、卵の代替品に大豆の煮汁を用いて焼成前の生地の粘性を調節し、卵を使用したマフィンに含まれる気泡の割合と同程度の気泡を代替品を用いたマフィンにも含ませることを試みた。気泡形成における卵と大豆の煮汁の相違点として、気泡の保持に関わる脂質が卵には含まれるが、大豆の煮汁には含まれていないと考えられる点が挙げられた。この点を改善することで、大豆の煮汁を用いたマフィンの気泡の割合を高めることができると考えた。
香りを持つクロモジ類の分類学的研究
香りを持つクロモジ類の分類学的研究
クロモジ類には5種が知られており,5種は香りが異なることが分かった。分類は文献によって異なっていることから香り成分の分析と分子系統解析により,分類の再検討を行った。葉緑体DNAのtrnL-F領域と核DNAのITS領域の分子系統解析を行った。枝葉の水蒸気蒸留を行い,芳香蒸留水と精油を作成,芳香蒸留水は紫外可視分光光度計で分析,精油はガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)を行い,その成分を比較した。葉緑体DNA,核DNAの両領域で5種には数塩基の違いしかなく,核DNAではクロモジ,オオバクロモジ,ヒメクロモジの3種とケクロモジ,ウスゲクロモジの2種に分かれた。香りの分析の結果も差が見られた。クロモジ5種はかなり近縁で,分子系統解析と香り成分の分析の結果から2つのグループにまとまる可能性が高いことが分かった。今後,MIG-seqによる分析を行い,より詳しい分子系統解析を行いたい。
スギナに見られる蛍光成分Ⅳ
スギナに見られる蛍光成分Ⅳ
2021年に薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて、スギナ(Equisetum arende)に含まれる青い蛍光成分を確認し、調査を開始した。青い蛍光成分が水溶性であること、高温乾燥に強いこと、顕微鏡観察により二次細胞壁に多く含まれることが確認された。蛍光成分の候補としてリグニンやセルロースの前駆物質である可能性が示唆された。2024年には粉末化したスギナの抽出液を、アスピレーターや半透膜を用いて濃縮し、ろ紙2次元クロマトグラフィーによる分離を行った。2次元クロマトグラフィーにより、蛍光物質はf1〜f5に分けることができた。ろ紙の蛍光部分を切り抜いて蛍光成分を再抽出し、GC-MS、NMRなどを用いて成分分析を行った。その結果、ヒドロキシメチルフルフラールとバニリンが蛍光物質の候補として挙げられた。今後はより純粋な物質に分離するための溶媒を探し、再抽出の方法改良や標品との比較を行い、蛍光成分の同定と特性評価を進める予定である。
WPIポスター発表要旨
NH3検知及び触媒反応を可能とするイリジウム錯体を内包した架橋ドメイン構造を有するハイドロゲルの合成
NH3検知及び触媒反応を可能とするイリジウム錯体を内包した架橋ドメイン構造を有するハイドロゲルの合成
熱応答性ハイドロゲルの網目鎖へ局所的に有機金属錯体を導入することができれば、ゲルの分子ふるい効果や刺激応答性に錯体特有の機能(溶媒親和性、色の変化、触媒等)を組み合わせた特異的な分子認識や触媒反応の実現が期待できる。最近伊田らにより、架橋された温度応答性高分子から成る架橋ドメイン構造とこれを橋渡しする異なる性質の高分子鎖を有する両親媒性ハイドロゲルが報告されている。一方、当研究室では、以前より水溶性イリジウム錯体を触媒に用いた、アンモニア(NH3)とアルコールを原料とするN-アルキル化反応を報告してきた。この触媒は水中で安定であり、アンモニア分子がプレイリジウム錯体に作用すると配位子交換により赤色から淡黄色に変色する特性がある。今回、我々は、このイリジウム錯体を架橋ドメインゲルへ局所導入することにより、色調変化によるNH3検知および触媒反応を可能とする新規機能性ゲルを合成した。
多項式の幾何学ー離れて見るか近づいて見るかー
多項式の幾何学ー離れて見るか近づいて見るかー
y=x2やx2+y2=1などの多項式の等式からグラフとして図形を描くことには、誰でも馴染みがあると思います。
こういったグラフとして現れる図形の形を調べるのが代数幾何学という分野です。
しかし、代数幾何学にも色々あり、ざっくり分ければ図形を「離れて見るか」「近づいて見るか」の2種類があります。
本ポスターでは、そういった代数幾何学の考え方を、少しだけご紹介したいと思います。
細胞内DNAの折りたたまれ方を細部まで明らかにする
細胞内DNAの折りたたまれ方を細部まで明らかにする
ヒト細胞の核の中には、つなげると約2メートルにおよぶゲノムDNAが高度に折りたたまれて入っています。このゲノムDNAは、まず、ヒストンタンパク質に巻き付いてヌクレオソームと呼ばれる最小構造をとり、次に、このヌクレオソームが積み重なった高次構造をとっています。このゲノムDNA構造を、細部まで明らかにするため、Hi-CO (Hi-C with nucleosome Orientation) 法を開発しました。これは、ゲノム構造解析の一つであるHi-C法と、分子動力学計算に基づいたシミュレーションとを組み合わせた手法です。このHi-CO法は、細胞内のヌクレオソームの3次元配置と向き、つまり配向を明らかにすることができます。そのため「配向」とかけて「Hi-CO(ハイコウ)」と名付けました。今回は、Hi-CO法と、Hi-CO法により明らかにしたヌクレオソームレベルのゲノム構造について紹介します。
生体イメージング技術を用いた免疫細胞の動態の可視化
生体イメージング技術を用いた免疫細胞の動態の可視化
当研究室では、多光子励起蛍光顕微鏡を用いて生きた動物の体内における細胞の働き(動態・機能)を直接観察している。このような研究手法を「生体イメージング」という。私たちは、生体イメージングを活用して疾患における免疫細胞の動態を解析することで病因解明に迫っている。本発表では、様々な臓器内での免疫細胞の動態を紹介し、さらに応用編として基礎医学研究および創薬研究における生体イメージングの活用法についても紹介する。
白く、透明にもなる、鉄錆で安全にUVカット
白く、透明にもなる、鉄錆で安全にUVカット
紫外線(UV)は皮膚癌や肌の老化を引き起こすため、化粧品や日焼け止めクリーム等のUVカット製品が我々の生活には欠かせません。しかし、そういった製品に用いられている材料(酸化チタンTiO2に代表されるUV散乱材や有機系UV吸収材)は、近年、健康・環境リスクが指摘されており、世界中で利用が制限されつつあります。鉄イオンに水やOHが配位したアクア鉄(ならびにそのオリゴマー)は、無色透明でUVを吸収する一方、不安定で合成が難しく、生体・人体には有害な光触媒作用も示します。我々は、アクア鉄オリゴマーをnmレベルの隙間を有する多孔質シリカ中に埋め込むことで、有害な光触媒作用が抑制されたUV吸収白色粉末を合成することに成功しました。この粉末は、オイル等と混ぜると透明にもなるため、化粧品や日焼け止めクリームの他、自動車や建材などのUVカット透明塗料など多彩な応用が期待されています。
日本での水素社会モデル研究
日本での水素社会モデル研究
水素社会が実現すれば、エネルギー、産業、輸送部門に関するCO2排出の抑制が期待できる。国際エネルギー機関 (IEA) によると2050年までに水素による全世界のCO2削減能力は約6%であるとされている。再生可能エネルギーも大きく貢献するとされていて、水素にとって重要な役割を担うとされている。水素社会の実現は安易なことではなく、科学においてもイノベーションにおいても進歩が必要であり、グレー水素(化石燃料由来)からグリーン水素(再エネ由来)への移行も期待されている。当研究では世界のエネルギー需要の3%を水素によって賄えるとの発見とともに、日本が特殊ケースであることも分かった。日本では水素社会の導入がうまく進めば25%のエネルギー需要を担えて、特に電力発電、都市ガス代替、燃料自動車やバスの燃料にもなり得る。人々のニーズを満たし、環境、経済、社会意識に沿って導入されれば2050年の半分の乗用車が水素自動車に移り変わるケースも期待できる。今後のグレー、ブルー、そしてグリーン水素への転換が水素社会の実現及びカーボンニュートラルの実現に大きく貢献すると考えられる。
Orexin receptor antagonist modulates human energy metabolism during sleep
Orexin receptor antagonist modulates human energy metabolism during sleep
土星衛星タイタンにおける炭化水素サイクル
土星衛星タイタンにおける炭化水素サイクル
タイタンは土星の最大の衛星であり、地球以外で現在も液体を表面に保持する唯一の天体である。その大気はメタンと窒素で構成されており、これらが表層を循環し、メタンの湖や海を形成している。メタンの挙動の理解はこの液体環境の変遷やハビタビリティ(=生命の存在・誕生可能性)を探る鍵となるが、大気メタンは光化学反応や大気散逸で消費され、太陽系の年齢に比べ短い時間で尽きてしまう。そのため、メタンを供給するプロセスが、その表層環境進化を明らかにする鍵となる。供給源として、地下のメタンハイドレートが着目されている。これは水分子のかごにメタン分子をトラップする固体であるが、それが地下でどのように形成され、そしてメタン分子を大気へと供給しうるのかは不明な点が多い。本発表では、メタンハイドレートの生成と解離に焦点を当てた炭化水素サイクルのレビューとともに、発表者が行った分子動力学シミュレーションの結果を紹介する。
Quinones: Molecules for Many Occasions!
Quinones: Molecules for Many Occasions!
Quinones are ubiquitous in natural environments and are produced by all kingdoms of life. They can be simple or very complex and are involved in many processes within biological systems, including their use as medicines and coloring dyes. However, quinones can also act as signaling agents and can be sensed by all living organisms. In animals and bacteria, the sensing of quinones—implicated in the perception of noxious stimuli or as pheromones—is well characterized.
In plants, quinones prevent neighboring plants from growing nearby to reduce competition. Quinones can also induce the development of feeding organs or enhance immunity against pathogens, depending on the plant species that perceive these quinone signals. We have recently begun to understand how quinones are sensed in plants. We are now trying to address two main questions: 1) How can the same quinone molecules induce diverse responses in different plant species? and 2) Are there other quinones in plants that are used for signaling, and can we manipulate these responses for improved plant productivity or protection?
「光で切る!ライトシート顕微鏡の開発」~顕微鏡を〈作って〉身体の構造を解く~
「光で切る!ライトシート顕微鏡の開発」~顕微鏡を〈作って〉身体の構造を解く~
生き物はみな3次元の構造をもっているが、カメラで得られる画像は2次元だ。そこで従来は、ナイフで試料を薄く切断し、それを何枚も並べて観察していた。この方法では、切る断面によって見え方は変わるし、コンピュータで3次元に再構成しようとしても、各々の画像のつなぎ合わせには大変な労力がかかる。
X線CT検査は、身体を通過する電磁波を用いて、切らずに身体内部の3次元構造情報を得る方法だ。これと同様に、あらかじめ試料を透明化する処理を施しておけば、物理的に切断しなくとも光の薄いシートで照明することで、ある断面だけを観察できる。それがライトシート顕微鏡だ。
マウスには約1億個の脳細胞があるが、私たちが独自に開発したライトシート顕微鏡を使うと、一個一個の細胞を見ながら、10分足らずで脳全体像をスキャンできる。本ポスター発表では、脳や肺などの臓器を光でスキャンして見えてきた3次元の姿をお見せしたい。
高速AFMによる記憶タンパク質(CaMKII)の一分子観察
高速AFMによる記憶タンパク質(CaMKII)の一分子観察
記憶は、脳内の神経細胞が形成するネットワークに保存されている。神経細胞同士はシナプスという接続部を介して情報伝達を行っており、シナプスは入力信号に対して情報伝達効率が変化する可塑性を持つ。特に、記憶時には、シナプスの情報伝達効率が長期的に向上し、忘却時には減少する。このようなシナプスの可塑性には、Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)が重要な役割を果たすと考えられてきた。しかしながら、CaMKIIがシナプスの可塑性に対してどのように機能するかは不明である。本研究では、高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を用い、CaMKIIの1分子観察を行った。その結果、基底状態や記憶に関わる活性化状態では、複数のCaMKII分子が集合体を形成し、忘却に関わる活性化状態では、分散することが分かった。この結果から、シナプスの可塑性におけるCaMKIIの分子作動メカニズムを議論する。
コンピュータが先導する化学反応開発とバーチャル分子を用いた触媒設計
コンピュータが先導する化学反応開発とバーチャル分子を用いた触媒設計
新しい化学反応の開発は、医薬品や材料分子など、我々の生活を支える分子の合成を簡便にする。さらに、斬新な反応を開発できれば、人類が未だ手にしたことのない未踏分子の合成が可能となる。したがって、化学反応開発研究は、我々の生活を豊かにする鍵である。現在の化学反応開発は実験的なトライアンドエラーに頼っており、一つの反応を開発するために年単位の時間を要する。この方法では、限られた時間や資源を浪費してしまうため、より効率的な研究の進め方が求められている。化学反応創成研究拠点(ICReDD)では、量子化学計算や人工知能など、コンピュータが先導する次世代型の化学反応開発に関する研究を行っている。このような手法は、コンピュータ上で反応設計や触媒の最適化を行えるため、時間や資源を節約しつつ効率的に新反応を発見できる。ポスター発表では、バーチャル分子という新しい理論計算手法に基づく触媒設計に関して発表する。
嫌悪条件下でのモチベーション低下に因果的に関与する非ヒト霊長類脳の線条体→淡蒼球経路
嫌悪条件下でのモチベーション低下に因果的に関与する非ヒト霊長類脳の線条体→淡蒼球経路
モチベーション(特定の行動を起こすための内的欲求や動機)は動物にとって非常に重要な要素である。しかし、外部の影響を受けやすく、特に、嫌悪的刺激が存在する状況下ではモチベーションが下がりやすい。うつ病や統合失調症など多くの精神疾患でモチベーションの低下が症状として認められ臨床的な重要性が上がる中、嫌悪的な状況がどのようにしてモチベーションを抑制するかという神経メカニズムはまだ解明されてない。本研究では、ヒトと相同の脳構造を持つマカクザルを用いて、嫌悪刺激に応答しモチベーションを制御する脳回路を調べた。化学遺伝学的技術を用いて特定の脳経路―線条体→淡蒼球経路―を選択的に抑制した結果、モチベーションの低下を促す嫌悪条件下にも関わらず課題開始への意欲が向上された。この結果から、線条体→淡蒼球経路は嫌悪条件下でのモチベーション低下に因果的に関与することが証明された。
モスアイ構造を施した「クリアに見える」ミリ波望遠鏡で解明する宇宙の歴史
モスアイ構造を施した「クリアに見える」ミリ波望遠鏡で解明する宇宙の歴史
蛾の目の表面はナノスケールの突起で覆われており、ここから周期的な突起を一般的にモスアイ構造と読んでいる。モスアイ構造は空気と媒質の境界を緩やかに繋ぐため、広い波長領域で反射を抑える仕組みになっている。さらにその形状を調整すれば、任意の波長・帯域で、しかも低温でも使えるという、画期的な反射防止機構である。我々はこれを宇宙望遠鏡へ応用している。例えば、宇宙の始まりを記述するインフレーション理論の検証では微弱な電磁波を観測する必要があるため、望遠鏡を数Kまで冷却し、30~500GHz(波長0.6~10mm)の領域で観測を行う。その望遠鏡に使うフィルターやレンズ、波長板などにモスアイ構造を施して、広い波長領域でクリアに宇宙を見られる望遠鏡の開発を目指している。ここでは、モスアイ構造の基本的な原理と、その作製方法、WPI-QUPが行う望遠鏡搭載時の性能評価や今後の展望などを紹介する。
卵母細胞の休眠状態維持機構に関わる遺伝子の探索
卵母細胞の休眠状態維持機構に関わる遺伝子の探索
卵母細胞は哺乳類の卵子の元となる細胞である。精子が幹細胞からほぼ無限につくられるのとは異なり、卵母細胞は胎児期に形成されたのちは、増殖を停止して休眠状態をとる。このようにあらかじめストックされた休眠状態の卵母細胞が、少数ずつ活性化することで、ヒトでは数十年間にわたり卵子を供給することが可能となる。
この卵母細胞休眠状態の維持が破綻すると、若年期に卵母細胞が急速に枯渇する早発卵巣不全という難治性不妊疾患の一因となる。
卵母細胞の休眠状態維持に関わる遺伝子を明らかにできれば、その遺伝子を手掛かりとして、早発卵巣不全をはじめとした不妊症の研究が進むはずである。しかし、既存の生体試料解析(手術標本など)では、遺伝子の機能を実験的に検証することはできない。
本研究では、多能性幹細胞と体外培養の技術を用いて、卵母細胞休眠状態の維持と活性化を再現することで、そのメカニズムに関わる遺伝子を同定することを目指す。
結び目の対称性とその応用
結び目の対称性とその応用
数学的な対象としての結び目やその対称性について紹介する。結び目は円周の3次元空間への埋め込みとして定義される。トポロジーの対象として、連続的変形でうつりあう結び目を同一視することが多い。また、対称性は群という代数的対象によって表される。結び目に関する最も基本的な対称性は、キラリティに関するものである。結び目が鏡映でうつしたものと連続的にうつりあうとき、両手型であるという。両手型でないとき片手型(キラル)であるという。分子のキラリティと同様の概念だが、連続的変形を許していることに違いがある。このことから、結び目を空間内で対称性のある形に実現できるかが問題となる。さらに、結び目の対称性は応用研究の観点からも興味をもたれている。関連する結果についてもいろいろ紹介したい。
右と左の分子の世界
右と左の分子の世界
右手と左手は、同じ構造だが重ねあわせることはできない。このような性質をキラリティという。自然はキラリティにあふれているが、カタツムリや巻貝の殻の多くは右巻きであるように、どちらか片方の構造に偏っていることが多い。人間の体も例外でなく、一見左右対称であるが、体内では肝臓が右で胃が左に偏っている。このような偏りは、ミクロな世界にも見られ、アミノ酸や糖がその代表である。実際、生命は右手型と左手型のアミノ酸のうち、左手型のみをタンパク質の材料に利用する。一方で、右手型のアミノ酸は生命には存在しないと信じられてきたが、近年になって、このような左右の偏りは不完全であることがわかってきた。例えば、脊椎動物の中では、哺乳類だけが脳で右手型アミノ酸を利用し、記憶や感情の形成に役立てている。このトークでは、このような常識を覆す左右の分子の世界についてご紹介したい。
謎多き海洋寄生虫生物群・アセトスポラは、いつどこで何をしていて今後どうなるのか?
謎多き海洋寄生虫生物群・アセトスポラは、いつどこで何をしていて今後どうなるのか?
海洋には理解があまり進んでいない生物が数多く残されており、特に微生物の多様性や役割の大部分は未だ明らかになっていない。寄生性の原生生物(≒単細胞性の真核生物)の一群であるアセトスポラはその代表格であり、カキやカニなどの水産資源生物に感染し産業的な被害を与える種がいる一方で、宿主生物に対して大きな影響を与えずに生息している種も多くいると推察されている。宿主を殺してしまうような強い影響を与えるアセトスポラと共存している(ように見える)アセトスポラは、何が違うのであろうか。海の生態系構造の中で、アセトスポラはどのような役割を担っているのであろうか。現在懸念されている海の環境変化が今後進んだ場合、アセトスポラの振る舞いや影響はどのように変わるのであろうか。ポスターでは現在行なっている取り組みを紹介すると共に、高校生の皆さんと今後行うべき課題や重要と考えられる課題についての意見交換を行いたい。